米アップルのタブレット型端末「iPad(アイパッド)」は、薄型・軽量のボディーにスピードと多彩な機能を詰め込み、長いバッテリー駆動時間を実現したことで驚異的な成功を収めている。ノートパソコンの機能を網羅しているわけではないが、たいていはノートパソコンの代わりにユーザーの携帯用端末になる。アップルがわずか3年半でアイパッドを1億7000万台販売したのはこのためだ。
アップルはレベルをさらに上げようとしている。同社は来月1日に第5世代のフルサイズモデル「iPad Air(アイパッド・エア)」を発売する。この新機種は、既存モデルと同じ499ドルの基本価格でアイパッドの長所を大きく伸ばした。アップルは9.7インチ型の「レティナ」ディスプレーはそのままに、巧みなデザインとエンジニアリングで重量を28%、厚さを20%、幅を9%、それぞれ削減しながら処理速度を向上させた。
アイパッドエアの重さはわずか469グラム。販売を打ち切る従来機の「アイパッド4」は652グラムだ。
アイパッドエアのバッテリー試験を行ったところ、駆動時間はアップルのうたう10時間よりはるかに長かった。アイパッドエアは画面の明るさ75%、Wi-Fi機能オン、電子メールを次々に受信している状態で12時間余りにわたり高精細動画を再生し続けた。私がこれまで試したタブレットで最長記録だ。
アイパッドエアを1週間ほどテストしてみて、楽しく使うことができた。この新型アイパッドはタブレットのあり方を根本的に見直したものではなく、人気製品を大幅に改良したものだ。私がこれまで批評した中で最高のタブレットといえる。
理由は薄型・軽量のデザインだけでなく、アップルがタブレットでの利用に最適化した47万5000種のアプリケーションを誇ることが挙げられる。これはあらゆるタブレット向け基本ソフト(OS)の中でもダントツのアプリの多さだ。ちなみに、アイパッドはスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」向けの約100万種のアプリすべてに対応する。一方、競合OS「アンドロイド」搭載のタブレットの大半は、スマートフォン用アプリの拡張版が利用できるに過ぎない。
アップルは来月終盤に小型タブレットの「iPad Mini(アイパッド・ミニ)」も発売する。この2代目ミニは、アイパッドエアより小さい7.9インチ型の高精細レティナディスプレーだが、画素数はアイパッドエアと同じだ。厚さと重さは初代よりやや増えた。基本価格は329ドルから399ドルに引き上げられる。アイパッドエアと同じアプリが実行できる。
アップルの発表イベントで新型ミニを少しだけ手にすることができた。既存モデルと同様にジーンズの後ろポケットにしっかりと収まった。競合する7インチ型のアンドロイド端末ほど持ち運びやすくはないが、片手で十分に扱える。
新型アイパッドにも弱みはある。大半の競合機種より高価なことだ。韓国・サムスン電子の「ギャラクシー・タブ3 10.1」の値段は360ドルから。デルが発表したばかりの小型タブレット新機種「ベニュー7」は150ドルだ。
アイパッドの機能を多くしようとすると費用はさらにかさみそうだ。アップルは携帯電話通信や記憶容量などの追加機能を高く販売している。高速無線LAN(構内通信網)のWi-Fi(ワイファイ)接続とセルラー接続の双方に対応し、記憶容量が最大128ギガバイト(基本モデルは16ギガバイト)のアイパッドエア最上位モデルは929ドルする。
だがアップルはアイパッドを以前より安く提供しようとしている。初代のアイパッドミニは、値下げ後の基本価格(299ドル)を据え置く。また、2011年式の「アイパッド2」の価格は399ドルからとする。こうしたモデルは、ディスプレーがレティナではなく、プロセッサーも旧式だ。
アップルは一部の他社とは違い、アイパッドの生産性や創造性を高めるようなアクセサリーは販売しない。アイパッドにはマイクロソフトのタブレット「サーフェス」のようなメーカー純正のスナップ式キーボードがない。また、サムスンの「ギャラクシー・ノート」タブレットとは違ってスタイラス(タッチペン)やスタイラス対応アプリは内蔵されていない。
アップルは、第三者のハードウエアメーカーがアイパッド用のキーボード、キーボードケース、スタイラスを製造しているとして、こうしたアクセサリーを追加しないことを決めた、としている。同社はアイパッドの新規購入者に統合ソフトの「iLife(アイライフ)」と「iWork(アイワーク)」の改良版を無料で提供し、ソフトで生産性と創造性の向上に努めている。
アイパッドエアは2つの既存モデルに比べて長時間持ちやすくなり、処理速度も著しく向上した。アップルによると、アイパッドエアは自社製の新プロセッサー「A7」の採用により処理速度が最大で旧機種の2倍になった。新型ミニもA7を採用した。A7はパソコンの一般的CPUと同じ64ビットチップで、大量のデータを処理できる。
アンテナが2本に増え、Wi-Fi接続も良くなった。アイパッドエアのインターネット通信速度は数回のテストでたびたび旧機種を上回り、手持ちのノートパソコンと同程度だった。
カメラ、特にビデオチャットに使われる前面カメラがやや改良された。マイクは2つに増えた。
アイパッドエアのバッテリー性能には脱帽した。スクリーン自動調光などの節電機能を切り、Wi-Fiと通常設定の電子メール機能を起動した状態でメモリーから動画を再生する厳しいバッテリー試験で、アイパッドは常にほぼアップルの仕様を満たし、競合機種に大きな差をつけた。
この新しいアイパッドエアのバッテリーは、アップルのうたう駆動時間より20%余り長い12時間13分も作動し続けた。アップルは、A7チップ自体の性能に加えて、CPUとOSがいずれも自社製であることから、新型アイパッドでは内部処理を調整してバッテリーの無駄遣いを省くことができる、と説明している。
結論:懐に余裕があるならば、新しいアイパッドエアは断然お勧めのタブレットだ。